『いのちはたいせつ。』今日も任務で虚を斬ってきた人が言う台詞ではないし、私が言うと随分安っぽい言葉に思える。

最近腕が鈍ってきたんじゃないか、と上司の死神が私に言った。精進します、と返事をした。元々剣とか鬼道の腕なんてたいしたものじゃなかったけど、死神になってだいぶ経つ。仕事にはなれているはずなのに、最近現世の虚退治にてこずっている私に喝をいれようとでもしたのだろうか。

少なからず苦しんで消えてゆくかつて人だったはずの、だけど人の姿をしていないそれを斬ることを仕事であり使命だと思っていたのはいつの事だっただろうか。正確な年齢はもうわからない。下級の死神なんてみんなそうじゃないだろうか。それなりに年はとったはずなのに、募るのは対象のわからない焦りばかりだ。

なにをどこまで悲しめば良い?考えれば考えるだけわからなくなる。




仕事が終わった後、外に出たら風が少し冷たかった。草の陰から秋の虫の鳴き声が聞こえる。
その足で檜佐木君の部屋に行った。突然行ったのに檜佐木君は私を部屋に迎え入れてくれる。檜佐木君のそういうところは霊術院の頃から変わらない。いつ行っても片付いた簡素な部屋も、ふかふかの布団も、檜佐木君の匂いも。
いつの間にか腰に回された手が私を少しだけ締め付ける。ちょっとだけ苦しくなって、檜佐木君の顔を見ようと頭を動かしたら檜佐木君の唇が降ってきた。・・・檜佐木君の布団はあったかいな、秋の初めの空気を思い出しながらぼんやりそう思った。




「・・・死神も妊娠するの?」

「するんじゃねぇの?」

「でも、檜佐木君は避妊しないよね。」

「・・・愛故?」

「・・・バカ。」



「・・・なあ、結婚する?」



あれ、涙が、出た。
うれしかったのかかなしかったのかそれとももっとべつのなにかなのかな。


「泣くなって。なに、嫌?」

「・・・ちがう。」

「じゃあ何?」

「・・・好き。」




「・・・今日なんかあったの?現世だったんだろ?」

「・・・虚、斬ってきた。・・・けっこう大きい奴でさ、ほら、血が、出るんだよね。虚だって、斬ると。」

「そうだな。」

「なんか、同じなんだよね、いや、同じじゃないんだけど、同じ。蟹沢と青鹿のときと、」



痛みが


自分でも理解しきれていない感情を人に話すのは混乱するな。
ごめんね、うれしいのかかなしいのかもわからない。



「・・・守るものがあるのは強いよ。俺はのために戦ってる。」



絡まっていた何かがするりとほどける感覚。ああ、そうか。それなら私は檜佐木君のために戦うんだ。
なんとなく恥ずかしくて言葉に出来なかったから、かわりに軽くキスをした。









Оlive drab






(07.9.28)