地面に足をつくたびに、力の入らないの右足が体の横で揺れた。彼女は痛がるそぶりは見せない。 里への帰りを急ぐ道すがら、強い子に育ったのだな、と場違いな感慨にふけった。 決して浅いとは言い難い傷にさわるといけないと思い少し速度をゆるめる。すると、背におぶさっている彼女が口を開いた。 「・・・先生。」 「なに?」 「どうして助けに来てくれたんですか?」 「お前が帰ってこないからだよ。」 返ってきた至極当たり前の返事に、はそっか、と返事をした。でも彼女の聞きたかった答えは、本当はそんなことじゃない。 「・・・、先生。」 「なに?」 「足が痛い。」 「だろうね。」 「立ち上がれなくて、でも意識ははっきりしてるの。なのに動けなくて。」 「だからオレがむかえに来たんでしょーが。」 「・・・死ぬんだと思った。私も。とうとう私の番が回ってきたんだなって。」 「・・・。」 「どうでもいいと思ってたの。ここではたくさん人がしぬから。」 「どうでもいいって?」 「私一人くらいいなくなったって、」 「構わないって?」 「・・・うん。」 「そんなことを言う子に育てた覚えはないんだけどなあ。」 「こんなときだけ教師面するの止めてよ。」 先生だって、数え切れないくらいの人を殺してきたでしょう?私がこの里に生まれてなければ、別の隠れ里で忍になっていたら 先生に殺されてたかもしれないじゃない。 それを考えるともうどうでもよくなっちゃうの。 みどりはそう言って、人殺しが正しい時代に生まれてきてしまったことを嘆いた。 もし時代が違えば?もし立場が違えば?さっき殺したこの男と、愛し合っていたかもしれないのに。 「人のいのちを奪う技術ばかり磨いて、…それでお金もらって生活して。」 「うん。」 「何が大切なのか、わからなくて。」 「うん。」 「たまに思うの。私がいなくなれば、死ななくてもいいのに死ぬ人が減るんじゃないかなって。」 「うん。」 「・・・うん。」 それからみどりはしばらく押し黙った。ちらりと背中に視線をやってみると、彼女の目はまっすぐ遠くを見ていた。 すこしして肩越しに下を向く気配がして、は 先生、ごめんね と小さく謝った。 「いいよ。オレにしか言えないんでしょ?そんなこと。」 「・・・うん。」 「疲れただろ。いまは全部忘れていいから、もう寝てもいいよ。」 「・・・うん。」 「、」 「がんばったね」 |